男性型脱毛症と女性型脱毛症
髪の毛は現代において個人のアイデンティティーを表現する機能が最も重要視されている部位ですが、加齢変化や性ホルモンの影響で思春期以降の特に男性に多く脱毛症を発症し徐々に進行する生理的な減少です。しかし、見た目の問題として世界中の人々にとっての悩みの原因となっており、生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。
古くから多くの人々を悩ませてきた脱毛症は、元々は血圧を下げる薬として開発されたミノキシジルの副作用として多毛症が認められたことから、男女の脱毛症の治療薬として使用されるようになり、現在では外用薬や内服薬など、様々な方法で治療可能となっています。
脱毛症はこれまで男性ホルモンの影響とされており、男性ホルモンに関連する因子へ働きかける薬剤で治療がなされてきましたが、女性の薄毛については男性ホルモンの作用では説明できない症状が多く、男性型脱毛症(AGA)と同様の治療方法では効果が認められない場合があることから、近年では男性型脱毛症(AGA)・女性型脱毛症(FPHL)と呼ばれるようになりました。このページでは脱毛症のメカニズムと治療方法について解説いたします。
毛周期と脱毛症

皮膚の中には毛髪を産生する毛包と呼ばれる器官が存在しており、毛包が毛髪を産生し抜け落ちるまでのサイクルを毛周期(ヘアサイクル)と言います。毛周期は、毛髪を産生する成長期、毛包が退縮する退行期、最も退縮した状態で活動を休止する休止期という3つのステージを繰り返しており、毛包が休止期を経て成長期へ入ると新たな毛髪が産生され古い毛髪が抜け落ちます。頭部の毛包は成人で通常2~6年の成長期で毛髪を産生・伸長させ、2~3週間の退行期と3~4ヶ月の休止期を経て新たな成長期へ入り毛髪を産生します。
毛髪は1本ごとに毛周期がズレているため、通常は一斉に毛髪が抜け落ちることがなく、正常な脱毛は1日で100本以内と考えられています。しかし、加齢変化や外的要因などで毛周期に変化が生じると薄毛などの脱毛症の症状が出現します。
AGA・FPHLの原因とメカニズム
男性型脱毛症(AGA)は、日本人男性の約30%に発症するとされており、年齢と共に症状が加速する傾向にあります。AGAの原因は、前頭部や頭頂部の毛包に存在する毛乳頭細胞と呼ばれる部位が男性ホルモンの刺激によって活性化されることで、成長期が短縮されることで起こります。髪の毛を産生する毛包には男性ホルモンであるテストステロンをより強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロン(DHT)へ活性化する5α-還元酵素が存在します。DHTは男性の男児に認められる男性ホルモンで、出生後から体内のDHTは減少し二次成長に伴い再び血中濃度が増加します。毛包は通常2~6年の成長期をかけて大きくなり、太く硬い毛髪を産生するようになりますが、AGAでは男性ホルモンの影響で数ヶ月~1年程に短縮されてしまうため毛包が十分な大きさに成長出来ず、細く軟らかく短い毛髪が産生されます。また、AGAでは成長期の短縮によって退行期・休止期の毛包の割合が多くなるため毛髪が薄くなるように見え、進行すると毛髪の無い状態へ進行します。
女性の薄毛はこれまで女性における男性型脱毛症(FAGA)と呼ばれていましたが、男性ホルモンの影響だけでは説明出来ない症状も多く、現在では女性型脱毛症(FPHL)と呼称されています。
脱毛症は毛がなくなるわけではない
AGAやFPHLは脱毛症と呼ばれていますが、毛がなくなっている訳ではなく前述のように成長期が短縮されることによる毛包の縮小が原因とされています。縮小した毛包は細く軟らかい毛を産生するだけでなく、成長期が短いため十分な長さの毛髪が産生できず、皮膚を越えて十分な長さへ毛髪が成長出来ないことが見た目上の毛量減少となり、進行すると毛髪が無くなったように見え「ハゲ」と呼ばれる状態へ至ります。これらの脱毛症は毛包が十分に成長出来ないことが原因であるため、治療薬で成長期の期間を延ばすことで改善することが可能です。
AGA・FPHLの治療薬解説
脱毛の原因や治療薬のメカニズムは現在、完全な解明には至っていません。しかし、過去の研究で治療薬としての十分な効果が認められているものが存在します。内服薬・外用薬ともに有効であると認められた薬剤がありますので、各治療薬について解説いたします。
内服薬
- フィナステリド
・作用と効果
前述の強力な男性ホルモンであるDHTを産生する5α-還元酵素にはⅠ型とⅡ型があり、Ⅰ型の酵素は全ての毛包に存在しますが、Ⅱ型の酵素は男性型脱毛症(AGA)で特に症状の出やすい前頭部・頭頂部の毛包に存在する酵素です。フェナステリドは5α-還元酵素Ⅱ型の働きを阻害することで男性ホルモンの作用を抑制する内服薬です。AGAの治療薬として有効性が認められており、1日1回の内服で時間の規定は特になく、定時で飲みやすい時間を決めて服用できます。治療効果に即効性はなく、一般的に内服を開始して3ヵ月で抜け毛の減少を自覚する人が多いとされています。3ヵ月で効果が感じられない場合でも6ヵ月~1年の内服で効果が認められる人も多く見られます。内服1年以降は毛量は維持あるいは漸減しますが、毛髪の長さや太さは増加するため症状の改善は持続します。内服を中止すると再び脱毛症が進行し始めるため、内服中止を検討される場合は注意が必要です。
・副作用
男性ホルモンの働きを抑制する薬のため、性欲減退・勃起不全などの性機能障害が懸念されますが、報告では性機能障害は0.2%程度とされており低率とされています。また、稀に重い肝機能障害を生じる可能性があり、検診等で肝機能障害を指摘されている方は内服を避けた方が良いと考えられています。フィナステリドの内服によって前立腺癌の検査に用いられる血清PSA値が50%程度低下するため、50歳以上の男性は内服開始前に測定しておくことが推奨されています。
女性型脱毛症への効果は認められておらず、女性の薄毛への使用は推奨されていません。また妊婦や授乳中の女性では、胎児・乳児の男性ホルモン低下により男児の生殖器発育に影響を及ぼす可能性があるため処方出来ません。
- デュタステリド
・作用と効果
デュタステリドは、強力な男性ホルモンであるDHTを産生する5α-還元酵素のⅠ型とⅡ型両方を阻害する内服薬で、フィナステリドと同様に男性型脱毛症に対して使用が推奨される治療薬です。
フィナステリドと比べてデュタステリドは効果発現が早いとされており、またフィナステリドで十分な効果が得られなかった人に対してデュタステリドへ切り替えたことで改善が得られた報告例もあります。最終的な硬毛数はフィナステリドと比較し差は認められておらず、必ずしもフィナステリドより優れている訳ではありません。
・副作用
男性ホルモンの働きを抑制する薬であり、性機能障害の副作用が国際臨床試験で3~5%、国内の試験では5~11%とフィナステリドと比較し高率に認められています。また、フィナステリドと同様に、内服によって前立腺癌の検査に用いられる血清PSA値が50%程度低下するため、50歳以上の男性は内服開始前に測定しておくことが推奨されています。
女性型脱毛症への試験は行われておらず、女性への使用は推奨されていません。
- ミノキシジル内服薬
ミノキシジルは高血圧症に対する降圧剤として開発された内服薬で、1979年に降圧剤としてアメリカで承認され、現在でも重症高血圧患者に使用されている内服薬です。
降圧剤として使用される中で、副作用として多毛症が頻発したことから男女の脱毛症治療薬として適応外で使用されるようになりました。
ミノキシジルの発毛作用について解明は十分に判明しておらず、十分な科学的根拠に基づいた説明もなされていません。十分な試験がなされておらず、現時点では否定も肯定もなされていない状態です。降圧剤としての作用をがあるため、血圧低下などの副作用が懸念されていますが、低用量の内服で副作用なく発毛効果が得られた試験結果も報告されており、発毛効果のための内服量など臨床試験の結果に期待されている薬剤です。
外用薬
- ミノキシジル外用薬
ミノキシジルの外用薬は男女ともに治療薬として強く推奨されており、特に女性型脱毛症に推奨されている数少ない治療薬です。
ミノキシジルが発毛に関して作用するメカニズムについては解明されていませんが、主に毛周期へ作用し休止期から初期成長期への移行を誘導・成長期の維持および期間の延長・血流促進による毛の成長・毛包細胞の増殖・細胞増殖因子の産生などが考えられています。
ミノキシジルは抗男性ホルモン作用による発毛促進ではないため、FPHLを含めたAGA以外の脱毛症への効果にも期待されており、円形脱毛症や抗がん剤等の化学療法による脱毛に対して効果を示したと報告もあります。
国内の臨床試験の結果からAGAには5%製剤、FPHLには1%製剤が推奨されていますが、海外ではFPHLを対象に5%製剤試験も実施され有用性が報告されています。
AGAでは作用点の異なるフィナステリドやデュタステリドとミノキシジルを併用することで発毛促進と脱毛の抑制の効果が得られるため有用な治療法とされています。
ミノキシジル外用薬は通常1日2回、1回1mLを脱毛部に直接塗布し、少なくとも6ヵ月は使用することが必要です。また、使用を中止すると再び軟毛となるため継続使用が必要となります。使用開始時には一時的に休止期脱毛が見られることがあるため、開始初期に脱毛が見られても使用を継続することが重要です。
- アデノシン外用薬
アデノシンの外用薬は発毛促進因子を誘導するとされており、男性に対する有効性が十分に示されている外用薬で、AGAに対する外用薬としてはミノキシジルに次いで推奨される薬剤となっています。女性に対する効果については十分な根拠が示されていない状態であり、推奨度は男性と比較し下がりますが、アデノシンは副作用が少なく女性型脱毛症に有効な治療薬が極めて少ないことから女性にも使用可能な薬剤とされています。
- その他外用薬
その他の外用薬として、カルプロニウム塩化物、t-フラバノン、サイトプリン、ペンタデカン、ケトコナゾール等があり、これらも脱毛症に使用可能な薬剤とされいますが、前述の2種類の薬剤と比較し推奨度は低い薬剤になります。
まとめ
男性型脱毛症(AGA)の発生原因と男女の脱毛症に対する治療薬について解説致しました。
男性の約30%がAGAを発症するとされており、現在の医療では脱毛症の進行を遅らせることや発毛の促進は可能ですが、完全な治療法は確率されておらず、薬剤の継続使用が必要となります。女性型脱毛症(FPHL)は安全性の確立されている治療薬は限られており、様々な薬剤の臨床試験の結果に期待が寄せられています。
PRO CLINICは脱毛症の治療薬としてフィナステリドとミノキシジルを採用しており、治療効果を確認しつつ投与量の調整が可能です。脱毛症でお悩みの方は診察・カウンセリングは無料ですのでお気軽に当院までご相談ください。