汗腺の種類と発汗のメカニズム
汗は通常、環境温度の上昇を皮膚が感知し、脳で体温調整を担っている視床下部へ刺激が伝わることで発汗が起こり体温調節を行う。汗を分泌する汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類に大別され、ほぼ全身に存在し体温調節のために発汗しする汗腺をエクリン汗腺、ワキや陰部など身体の限られた部位に存在しニオイの元となる物質を含む汗を分泌するものをアポクリン汗腺といいます。
発汗の刺激はアセチルコリンという神経伝達物質が分泌されて起こります。体温の上昇などでアセチルコリンが分泌され、エクリン汗腺を刺激して発汗が誘発されます。
一方、アポクリン汗腺の大部分はアドレナリンによって作動し、アセチルコリンで作動するアポクリン汗腺は少数とされています。
発汗は環境温度だけでなく、緊張など精神的な要因や辛い物を食べた場合などでも誘発されます。汗のかきやすさには個人差がありますが、手のひら・足の裏・脇は精神的な負荷で発汗が起こりやすい代表的な部位であり、特に脇の発汗は衣服の上から目立ちやすく日常生活・社会生活に精神的・心理的な苦痛を感じる方が多いとされています。
多汗症
多汗症は、全身の発汗が増加する全身性多汗症と身体の一部だけ発汗量が増加する局所性多汗症に分類されています。多汗症は特に原因のない原発性多汗症と他の病気が原因で起こる続発性多汗症があります。
- 全身性多汗症
原因となる病気がなく全身の多汗が見られるものを原発性全身性多汗症とされており、症状が主観によることや受診される件数の少なさから、起こり得る頻度は判明していません。家族性があると推定されており、症状の特徴として①発汗しやすい、②情動や精神的負荷によって急速に発汗起こる場合がある、などが挙げられており一般的な汗をかきやすい体質として扱われることが多いとされています。全身性多汗症の原因として、視床下部体温中枢が少ない発汗刺激でも活発に活動してしまう可能性が考えられています。 - 限局性多汗症
多汗症で治療を受けられる方の多くは限局性多汗症であり、身体の一部だけ発汗量多いことで悩み受診されます。発汗量が増える部位として、特に頻度が多い部位はワキ・手のひら・足の裏とされています。診断には発症年齢や睡眠中の発汗、家族歴などの項目があり診断基準を満たした場合に確定診断となります。
・掌蹠多汗症
手のひら・足の裏で発汗量が増えるものは掌蹠多汗症と呼ばれることもあり、重症例では発汗時に手のひらなどからしたたり落ちるほどの発汗量が見られます。絶えず発汗が続くと汗の蒸発などが原因で皮膚温が低下するため手足の指が冷たく、紫色になることがあります。また、手足の皮膚は湿り続けるとふやけてしまい、汗疹が出来てしまうことや皮膚がめくれてしまう場合があります。皮膚は体外から侵入する外敵からのバリア機能があるため、皮膚がめくれた状態が続くと細菌・真菌の感染を起こしやすい状態となってしまいます。日常生活では書類に汗じみが出来ることや、握手の際に相手に不快感を与えることもあり、掌蹠多汗症の方はかなりの社会的苦痛を感じて治療を希望される方が多く居ます。
・腋窩多汗症
ワキは外気温などの温熱性発汗と精神性発汗の両方が起こる、左右対称に多くの汗が出る部位です。腋窩多汗症では汗の量が多いため、下着やシャツのワキ部分に汗じみが出来てしまい、着る服を自由に選べない方や、汗じみで周囲の目が気になり、仕事や学業に集中できなくなる、1日に何度も制汗剤をワキに使用しなければ症状を抑えられないなど、日常生活・社会生活に大きな制限を受ける方が多い疾患です。
多汗症の治療
診断基準を満たし、多汗症と診断された方は保険診療で治療可能となります。治療には外用薬、内服薬、注射薬などがあります。
- 外用薬
- 抗コリン外用薬
2021年から国内で保険適用の治療薬として認可された治療薬で、ソフピロニウム臭化物ゲル(エクロック®ゲル)やグラリコピロニウムトシル酸塩水和物液(ラピフォート®ワイプ)などがあります。前述の発汗時におけるアセチルコリンの作用を抑制することで非常に高い制汗効果が得られる治療薬です。
比較的新しい薬のため、12歳未満の子供や妊婦・授乳婦などの臨床試験は実施されておらず、多汗症の部位や一部の方には処方出来ない場合があります。 - 塩化アルミニウム外用液
抗コリン外用薬で効果が得られない場合や、小児など抗コリン薬を使用出来ない方も使用可能な外用薬です。ワキや手のひら・足の裏など多汗症の原因となりやすいどの部位にも使用できます。副作用として皮膚炎などを生じる場合がありますが、ステロイド外用薬や一時的な使用休止で対応可能です。塩化アルミニウムは表皮内にある汗腺の汗管開口部を閉塞させることで発汗を抑制するとされています。長期間外用を続けることで、汗の分泌細胞自体が壊れるわけではありませんが、長期間分泌しない状態が続くことで、使われない体組織に起こる廃用性変化が生じるとされており、その結果汗の分泌機能を失うとされています。
- 内服薬
- 抗コリン内服薬
多汗症治療の内服薬として、唯一保険適用となっているものがプロパンテリン臭化物(プロバンサイン)です。抗コリン作用のある内服薬のため、服用することで全身のアセチルコリンの働きを抑制する効果があります。多汗症の中でも治療方法の選択肢が少ない頭部・顔面の多汗症や全身性多汗症に対して使用される場合があります。
抗コリン薬は前立腺肥大や閉塞隅角緑内障のある方には症状増悪の危険性があり使用できません。副作用として口の渇き、目のかすみ、ドライアイ、体温上昇、起立性低血圧、胃腸不良、尿閉、頻脈、眠気、めまいなどがあります。
- 注射薬
- A型ボツリヌス毒素(ボトックス®)
A型ボツリヌス毒素(BT-A)はボツリヌス菌が産生する神経毒で、A~G型までの7種類があります。A型は7種類の中で最も効力や作用時間が優れており、安定した効果が得られやすい毒素とされています。BT-Aは全身の筋肉に局所注射を行うことで、筋肉を弛緩させることで額・眉間・エラなどを縮小させることができますが、これらの効果はBT-Aが細胞の持つアセチルコリンの放出を阻害することで起こります。発汗にもアセチルコリンによる汗腺刺激が必要であるため、発汗を抑制することが可能となります。
2012年から原発性腋窩性多汗症の治療薬として保険適用となっていますが、ワキの多汗症の中でも重症と判断された症例のみ適用となっています。重症多汗症では前述の外用薬で十分な効果が得られないことが多く、そのような重症例に対して健康保険の対象とされています。
- その他治療法
- イオントフォレーシス
手のひら・足の裏に対し有効な治療法とされており、症状のある手のひら・足の裏を水道水に浸して電流を流して多汗を改善する方法です。水道水に電流を流すことで水が電気分解され、発生した水素イオンがエクリン汗腺に作用して発汗が抑制されるとされています。この治療法は1回30分、治療効果が得られるまでの初期治療は毎日あるいは1日おきに行い、それ以降は週1回の治療を継続します。初期治療の期間には個人差があり、通常は1~3週間程度とされています。
ワキ汗が気になる方は施術をおすすめ
多汗症の診断基準を満たさなくとも、ワキ汗や汗ジミで悩まれている方は多くいらっしゃいます。ボツリヌス毒素も多汗症に対して保険適用内ですが、重症例でなければ使用出来ないという大きな欠点もあります。PRO CLINICではワキ汗予防にボトックス®注射をご用意しております。ボトックス®は施術から数日で効果が現れ、3週間程度で効き目が最大となります。持続期間に個人差はありますが、平均6ヵ月程度とされています。ダウンタイムはほぼなく、日常生活に特に制限のない施術ですので、どのような方にもオススメできる施術です。
ワキ汗予防に興味がある方は、カウンセリング・診察は無料となっておりますので是非一度PRO CLINICへご相談ください。