間葉系幹細胞を利用した治験
心筋梗塞患者 30 人を自家および他家群に分けて骨髄由来間葉系幹細胞による細胞治療を施行した治験では、自家および他家の幹細胞共に安全性と虚血部位の縮小効果を認めています。
2007 ~ 2013 年の 7 年間にわたり骨髄由来間葉系幹細胞による治療や方法論が検討され、2,000 人以上患者を対象として自家 66 %、他家 34 % の治療を受けている事が報告されています。
この事は間葉系幹細胞による治療は特に自家幹細胞の必要がない事を示しています。
間葉系幹細胞の含まれる数は、骨髄よりも脂肪組織で多く含まれます。脂肪組織からは骨髄の500倍の幹細胞を得ることが出来ます。
脂肪組織や臍帯などの組織は間葉系幹細胞を多量に得ることができます。
これまで報告されている間葉系幹細胞から分化した細胞は、心筋細胞、血管内皮細胞、軟骨細胞、骨細胞、グリア細胞、脂肪細胞です。
また、間葉系細胞以外にも肺胞上皮細胞、尿細管上皮細胞と中胚葉起源の細胞への分化が報告されています。
他には内胚葉起源の肝細胞あるいは外胚葉起源の神経細胞、膵臓のインシュリン分泌細胞に分化するとの報告もあります。
細胞老化とは
組織幹細胞は自身を複製している抗老化状態、分化状態、不活化状態の 3 つの過程がありますが、培養された細胞は複製能力が最大限に達すると増殖能が無くなり不活化状態となり、この現象を細胞老化と呼んでいます。
しかし、生体内での組織幹細胞は不活化状態でも細胞外からの刺激により細胞増殖し、分化能も持つようになります。
そして、組織幹細胞は幹細胞とその分化した細胞を常に供給し、老化に伴う幹細胞の消失や機能の低下は寿命の長さと関係していると考えられています。
組織幹細胞は DNA 損傷、生体内の微小環境の変化で細胞老化が起こります。
複製能の消失は間葉系幹細胞の老化のサインで、40 回の細胞分裂を超えることはありません。
しかし、間葉系幹細胞の培地にヒアルロン酸を加えると、増殖能や分化能が長い間高まるとの報告があります。
一方、ES あるいは iPS 細胞は何代培養しても細胞老化は見られず、増殖を繰り返すことが出来ます。
若いドナーからの間葉系幹細胞は高い増殖力と分化能力を持っています。しかし、50 歳以上になると間葉系幹細胞の分化能力は低下がみられるだけでなく、腫瘍化のリスクが高くなると考えられています。
プロクリニック 医師 松澤 宗範
参考文献:
1) Takahashi K, Yamanaka S. Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell. 2006; 126: 663-676.
2) Liu H, Ye Z, Kim Y, et al. Generation of endoderm-derived human induced pluripotent stem cells from primary hepatocytes. Hepatology. 2010; 51: 1810-1819.
3) 中山亨之, 加藤栄史 (総説) 脂肪組織由来間葉系幹細胞を利用した細胞療法―現状と展開 日本輸血細胞治療学会誌. 2013:59:450-456.
4) 国際抗老化再生医療学会雑誌 第 1 号 (1-20) 2018 間葉系幹細胞による治療と抗老化 佐藤茂 劉效蘭